2011年9月6日火曜日

講談社科学出版賞授賞式が行われました

9月5日、東京丸の内の東京會舘で、「2011年度 第27回講談社科学出版賞」授賞式が行われました。講談社ノンフィクション賞(第33回)、講談社エッセイ賞(第27回)との三賞合同授賞式でした。それぞれの受賞作はすでに新聞等で発表されているのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、次のとおりです。

科学出版賞
 『冬眠の謎を解く』近藤宣昭(岩波新書)
ノンフィクション賞
 『カニは横に歩く』角岡伸彦(講談社)、『A3』森達也(集英社インターナショナル)
エッセイ賞
 『身体のいいなり』内澤旬子(朝日新聞出版)、『ジーノの家 イタリア10景』内田洋子(文藝春秋)

三賞合同ということもあって、作家、ジャーナリスト、研究者、各版元関係者など、多彩な方々にお集まりいただきました。


賞の贈呈式。左が近藤さん、右が弊社社長です。


今回受賞された方々。左から科学出版賞の近藤さん、
エッセイ賞の内田さんと内澤さん、ノンフィクション賞の森さんと角岡さんです。


ここはブルーバックスのブログですので、科学出版賞授賞式の様子と、選考委員を代表しての池内了先生の選評、受賞作著者・近藤宣昭さんの受賞の言葉をご紹介いたします。


【選評】 冬眠研究の現場報告  池内 了

 本書は著者が長年取り組んできた哺乳類(シマリス)の冬眠研究の一部始終をまとめたもので、著者の研究者としての成長過程とともに、そこで得られた科学的知見がわかりやすく提示されている。試行錯誤しつつ研究を進める研究者の生態報告が科学の考え方・進め方の手本となっているだけでなく、そこで見出された結果を一般的な法則として確立しようとする道筋は、科学がいかに普遍性を獲得していくかを知る手助けとなるに違いない。著者が得た知見はまだ部分であり、哺乳類の冬眠すべてに適用できるかどうかは明らかではないが、部分から全体に至ろうとする科学の歩みが読み取れるだろう。
 実験には失敗がつきものだが、失敗の原因を探って新しい方法を開拓する粘りが必要である。初めは何を意味しているかわからなかった事柄が、後になって重要な示唆を与えていたとはたと気づき、そこから研究が飛躍することもある。長い間実験に取り組むことにより、自然に真実を見分ける目も身についてくる。そんな研究者の辿る道が、実際の研究現場からの報告という形で具体的に展開されており、単なる知識の羅列でないところに本書の魅力がある。
 今、シマリスの冬眠研究から低体温治療や人工冬眠というような応用研究へと結びつくようになっているが、最初は直接の応用が期待できない基礎研究に過ぎなかった。そのような基礎研究があってこそ幅広い応用の道が拓かれるのである。経済論理一辺倒になりつつある学界への警鐘の本としても評価したい。
(いけうち・さとる 総合研究大学院大学教授)



【受賞のことば】 我を忘れて没頭できる時間 近藤宣昭


 全く想像できない出来事とは、今回の受賞のようなことをいうのだろう。受賞は勿論嬉しいのだが、研究を理解されたことが何より嬉しかった。
 受賞対象となった拙著は、一〇年ほど前から構想していた。自分で経験してきた実際の研究生活ではあったが、ふと気がつくと思いもかけないドラマチックな展開になっていたので、何らかの形で残しておきたいと思っていた。いろいろな方々との交流の中で、その思いと岩波書店の出版理念との出会いが待っていた。この賞を頂くことになった大きな要因の一つである。
 もともと私は、他人と似たことをやるのが好きな質(たち)ではないし、定石とか定理とかを暗記して問題を解くのも好みではなかった。でも、黙々と考えに浸れる時間は好きだった。『冬眠の謎を解く』は、このような"質"と"冬眠"との奇妙とも絶妙ともいえる巡り合いによってもたらされたように思う。長年一つのことを追究するのは大変だったろうと良くいわれるが、我を忘れて没頭できる時間は実に楽しい。むしろ、そこで得た感動を読者の方々に素直に文章で伝えることが、不慣れな私にとっては一苦労だった。
 本書には研究のみならずいろいろな思いを織り込んだ。読者の方々に様々な読み方をして頂き、生命のしなやかさを感じてもらえれば幸いである。
 関係者の方々、研究を理解し支援して下さった方々に心より感謝したい。

近藤宣昭(こんどう・のりあき)
1950年、愛媛県今治市生まれ。1973年、徳島大学薬学部卒業。1978年、東京大学大学院薬学研究科博士課程修了、薬学博士。三菱化成(現三菱化学)生命科学研究所主任研究員、財団法人神奈川科学技術アカデミーを経て、現在、玉川大学学術研究所特別研究員。これまでの著書に『冬眠する哺乳類』(共著、東京大学出版会)など。