2011年10月12日水曜日

ブルーバックス新刊著者エッセイ デジタル化で変わるテレビ

ブルーバックス9月の新刊『図解 テレビの仕組み』著者のエッセイをご紹介します。
(講談社PR誌『本』10月号に掲載されたものを転載しました)




デジタル化で変わるテレビ

青木則夫(パナソニックエクセルテクノロジー株式会社代表取締役常務)


 二〇〇六年の日本アカデミー賞を総なめにした映画「ALWAYS三丁目の夕日」のなかに印象的なシーンがある。映画の舞台になっている東京下町の小さな自動車修理工場・鈴木オートの居間に初めてテレビが設置される場面である。時代設定は昭和三三(一九五八)年、下町からは建設中の「東京タワー」が見える。電気店から届けられたばかりのテレビの前で、皆がかたずを飲んで見守るなか、一家の主人が興奮を隠せない表情でテレビの電源を入れる。その時代を過ごした人は、思わずうなずいてしまう緊張と喜びのシーンである。
 日本のテレビ放送は、アメリカで開発された方式を採用して一九五三年に始まった。高度経済成長の波にも乗って一九五〇年代の後半には、テレビは豊かさのシンボルとして、いわゆる「三種の神器」(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)の筆頭にあげられるようになる。テレビを持つことはステータスでもあった。一九六〇年からはカラーテレビ放送が始まり、一九六四年の東京オリンピックを契機に一気に受信機が普及していく。
 今やテレビの世帯普及率は一〇〇%に近くなり、まるで空気のような存在になっている。むしろ最近ではインターネットの普及にも押されて、若者のテレビ離れが進んでいるとも言われている。
 この間、テレビ放送の制作技術や受信機の完成度も高くなり、テレビの技術は成熟の域に達したかのように思われた。しかし、放送開始から五〇年近く経った二〇〇〇年頃になって、テレビをとり巻く環境が急に変わり始めた。
 一つは全世界的に起こっている「放送方式のデジタル化」である。日本では、今回の震災で大きな被害を受けた東北の三県を除いて、これまでのアナログ方式によるテレビ放送が二〇一一年七月二四日で終了し、完全にデジタル放送に切りかえられた。
 放送のデジタル化のもたらすものは想像以上に大きい。これまでと同じチャンネルのなかでデジタルハイビジョンの高画質放送が楽しめるという直接的な変化だけでなく、データ放送や電子番組表などの新しいサービスが提供され、テレビの使い方が変わる可能性を秘めている。またデジタル化によって、いわゆる「放送と通信の融合」が現実的になり、放送コンテンツの共用化やネットを経由しての放送サービスもできるようになっている。
 テレビをとり巻くもう一つの変化が、「薄型テレビ」へのシフトである。デジタル放送による高精細画像の番組(ハイビジョン)が増えてくるのに連動するように、これまでテレビのディスプレイ装置として長年使われてきたブラウン管(CRT)に代わって、ハイビジョンの表示に適した大画面・薄型のディスプレイ装置としてプラズマ(PDP)や液晶などを用いた薄型テレビが急速に普及してきた。
 テレビの操作方法は、小さな子供からお年寄りまで、知らない人はいないほど私たちの生活に溶け込んでいるが、その一方で、どのようにしてテレビの映像が伝送され映るのかという、その「原理と技術」については、案外知らない人が多いかも知れない。
 そこで今回執筆の機会に恵まれた『図解テレビの仕組み』(講談社ブルーバックス)では、テレビの技術が大きく変化しようとするこのタイミングをとらえ、私たちが日常当たり前のように使用しているテレビの基本の原理や仕組みについて体系的に説明すること、そして、それがデジタル化や薄型化によってどう変わっていくのかを解説することを狙いとしている。
 今日のデジタルテレビのシステムや受信機のつくりは、コンピュータやインターネットの技術を使った、たいへん複雑なものになっている。そのため、「テレビの仕組み」を理解するには、全体を段階的に理解していく方がわかりやすいだろう。そこで、本書ではアナログテレビの仕組みから始まって、デジタルテレビ、薄型テレビへの変化と、それらを実現する原理や技術について順を追って説明している。
 すでにアナログ放送の電波は停止されており、アナログはひと世代前の技術と思われがちであるが、デジタル放送になっても信号の伝送路は同じであり、電波を使って信号を送る技術には、やはりアナログ信号処理の「たくみの技術」が集大成されている。
 デジタルへの完全シフトによって、テレビ放送は通信との融合が加速されていくだろう。その変革は、コンテンツの共有だけでなく、ダウンロードによるタイムシフト視聴や、見たい時に番組を見るオンデマンド視聴など、これまでの放送時間に拘束された視聴スタイルも変えていく可能性を持ち始めた。